実際の設定

さて、前の記事で基礎知識をざっくりと書きましたが、ここでは実際の制作時にどんな感じでリバーブを設定すれば良いのか書いていきます。

まずは以下の図をご覧ください。

レイアウト

よくある一般的なホールのステージレイアウトです。間口が20m余り、奥行き11m、天井は7mくらいでしょうか。また、客席の奥行きは20mくらいと仮定。今回はメインマイクの表現を試してみます。そのメインマイクは指揮台のすぐ後ろに設置。

オーケストラの打ち込みではたいてい弦がいる前方(Close)、木管がいる真ん中(Mid)、金管がいる後ろ(Far)の3列それぞれの奥行きを表現します。ちなみに打楽器が最後列にあると4列ですね。

ERおよびTailの設定

さて、この例の場合、ERはどのようになるでしょうか。前記事では簡単にモデル化しましたので壁面の反射しか考慮しなかったですが、実際のホールでは壁面以外にも天井や床、さらにはステージの奥に反射したものや客席奥から反射したものなど、様々な方向からマイクに入ってきます。

ざっくり計算してみると今回の各ポジションの設定は以下の表みたいになりそうです。吸音率は一般的なホールのものを採用しました。また、床の反射については、人体が干渉する&Pre-Derayがほぼ10ms以内で、反射というよりBodyの共鳴に近いだろうと考え、今回はあまり考慮しませんでした。これもマイク位置等で変わってくると思います。

マイクそのものについても、例えばオムニとカーディオイドでは特に客席側からのERの特性が変わるでしょうし、考え出したらキリがありませんね。

距離(m) ERの音量
(dB)
Pre-Deray
(ms)
Tailの相対
音量(dB)
Close 3.5 -3.0 20.6 -
Mid 7.0 2.6 19.1 +6.0
Far 9.0 4.7 12.4 +8.2

なお、ここでは各方向のERで音量的に一番目立つであろうTimeをPre-Derayに設定しましたが、実際、客席奥から反射してくるERで一番遅いものは100msオーバーです、つまりERは複雑に反射しながら80~100ms程度の時間鳴っているということになります。細かくERを設定できるものであれば、そのあたりも調整した方が良いかと思います。

そして、TailはCloseのSendとの"相対音量"としていますので、好みのSend量を決め、それに合わせてポジション毎に調整していけば良いと思います。なぜ相対音量かというと、"Tailの絶対量は変わらない"と前記事で書いたと思いますが、各ポジションの距離によりDryの音量が下がる分TailへのSend量を増やし、それにより絶対量を同じにするから、と考えてください。

ちなみに今回の例では、もしCloseとFarに同じ楽器がいた場合、それらの楽器のDryの音量は8.2dBの差がある、ということが分かります。指揮者の隣にいるソリストと後ろの同楽器の音量差がそうですね。え、そんなに音量差があるように聴こえないよ?という方は思い出してください。今回は客席ではなく指揮者のすぐ後ろのメインマイクがリスニングポイントです。また、スポットマイクやその他のマイクアレイのミックスについては考慮してません。

このようにERとTailを個別に設定していくことから、使用するReverbはERとTailで別々に設定できるもの、さらにいうと、ERとTailで別々にバスを作った方が管理しやすいのではないでしょうか。また、今回の計算ではMidとFarのER音量が+0dBを超えてます。プリフェーダーで送るか、ERのバスにゲインアップのプラグインを挿すことも検討しないといけません。

高域減衰

高域ほど減衰度が大きい、という点についてですが、これもたいていのReverbで調整可能です。Reverbによって名称は違いますが、HighDumpHighRatioDumping等で呼ばれてます。ここを調整して高域の減衰度を調整します。また、Dryの方の高域を下げるのもポイントです。10kHz以上を下げても良いかと思います。

低域拡散

これは楽器の指向性によるとは思うんですが、高域ほど前に飛んで、低域は四方に拡散する傾向にあるということです。つまりマイクに入ってくる直接音の低域は距離が離れるに従いより弱くなります。

これを表現するにはReverbのSend後のDryにEQをかけ、200~400Hzくらいからロールオフさせると雰囲気が出ます。Send前にかけると残響を含めた全体に影響を及ぼしますので、それは低域拡散の表現そのものにはなりません。

その昔QLSO関連の記事で、Closeのバスを200Hzくらいからロールオフさせるといい感じになるよ!ということが書いてあり、それもこの表現のひとつだと思います。

まとめ

このようにReverbの各設定は、どのような場所で鳴っているのかということを想定しながら調整していく必要があります。これでまずベースを作り、さらにミックスへと進んでいくのが良いのではないでしょうか。

なお、今回はメインマイクのみに焦点を当てましたが、実際のレコーディングではスポットマイクの他にも弦や金管の音像幅を調整するためのOutriggerや、残響感や空気感の調整にAmbienceを立てたりしてますので、それらも表現するには今回提示した3つのポジションという括りではなく各パート毎にERを設定していったり、また各パート毎にStereoDerayを薄くかけてステレオ感の調整を行ったりするのも良いかと思います。

また、今回はERもアルゴリズミックリバーブを使う体で書きましたが、よりリアルにするためにER部分をコンボリューションリバーブ、Tailにアルゴリズミックリバーブを利用する方法もメジャーな手法です。

大半の専用ライブラリにはすでに各マイクポジションが収録されており、普通に使う分にはこれらの調整で何とかなってしまいますので、今回書いたワークフローはあまり使わないかもしれません。しかしながら、例えば吹奏楽編成などライブラリのシートポジションとは異なるポジションで使用するケースなどでは、Closeのポジションをメインに使用し、今回のようなワークフローを用いる必要があります。

テンプレート作成の参考にしてみてください。

次回は私も最近使いだしたんですが、Vienna MIR Proについて書きたいですね。