音場づくりあれこれ ~ 空間設計1

DTM

"演奏している場所"の表現って大事

オーケストラや吹奏楽の打ち込みをされている方は「どうやったらリアルに聴こえるか?」という点に日々苦心されていると思います。専用ライブラリ探しの旅に出られる方も多いですし、ストレージとメモリは多いほど良い、なんて状況だったりもします。

そんな音源のリアルさと同様に重要なのが「どこで演奏しているのか」、つまり音場の表現です。特に奥行きの表現は大事。各奏者がどこに座って演奏しているかはリアルさを高めるうえで重要なファクターとなります。

というわけで、このシリーズではその音場づくりについてのあれこれを取り留めなく書いていこうと思います。

手前と奥でどう違う?

「奥行きの表現が大事なのは分かった。じゃあどうやって表現するの?」ということなんですが、その前に音の性質について整理しておきましょう。

  • 音は秒速約340m(15℃の時)
  • 音は距離に応じてそのエネルギー(音圧レベル)が減衰していく(距離減衰)
    …なんで? ⇒ 楽器はたいてい点音源。音は球面状に広がっていき、面積が広がっていくにしたがってエネルギーも減少するから。
  • 音は高域が減衰しやすい ⇒ 振動数が多いからその分エネルギーも減衰しやすい、らしい。
  • 音の指向性。高域ほど指向性が強い = まっすぐ伝わる 低域 = 全方向に拡がっていく傾向
    ※楽器毎の音の指向性はまた別のお話

というわけで上記の性質により、音源が離れると

  • 音が遅れる
  • 音量が小さくなる(距離減衰)
  • 音がこもる(高域減衰)
  • 低域が薄くなる(低域拡散)

あたりの特徴が出てきます。

ホールではどう聴こえる?

さて、たいていはホール等での演奏を想定したものにしていると思います。その場合手前と奥でどのように違ってくるのでしょうか? リバーブの基本的な話は飛ばして、距離による差について書いていきます。

Dry/Wet比

音には楽器の直接音(Dry)と間接音(Wet)がありますが、距離によりこの比が変わってきます。離れるほど「Wetの割合が高くなる=リバーブ量が多くなる」のですが、これは距離減衰が関係します。

まず、間接音=リバーブの残響成分(Wet)には初期反射音(Early Reflection = ER)(※一次反射音ともいうみたい)後部残響音(Reverb Tail)があります。ERについては後ほど書きますが、後部残響音は壁や天井や床のあちこちに何度も反射して減衰していく残響音のことで、これは音源がある空間のどこに位置していても同じように響く残響音ですので距離は関係ありません。ホールの中のどこで小太鼓を叩いても同じような響きを得られる(ホールの形状は考慮しません)という状態を思い浮かべると理解しやすいと思います。後部残響音の音量に影響を与えるのは単純に音源そのものの音量だけです。

つまり、ある空間中のどこででもで同じように響いていますから、その空間内のどこで聴いてもやはり同じように聴こえる、ということです。

ここでDry/Wet比が変化するという点ですが、もうお分かりの通り、直接音(Dry)が距離減衰によって減衰する点に対して間接音(Wet)はどこで聴いても同じように聴こえる(=音量が距離による影響を受けない)ため、音源の距離が離れるにしたがって相対的にWetがより大きく聴こえるということになります。

プリディレイの変化

プリディレイは直接音と初期反射音の時間差ですが、距離が変化するとこの時間が変化します。

初期反射音

上図はある小さなホール内での初期反射音を表したものです。リスニングポイントに近いポイント(Close)と遠いポイント(Far)の2点があり、リスニングポイントからの距離が

  • Close:4m
  • Far:10m

となってます。
で、初期反射音の距離ですが、図より

  • Close:9.175m
  • Far:12.5m

となります。

前述の通り、音は1秒間に約340m進みますので、それぞれのポイントの直接音と初期反射音のリスニングポイントへの到達時間およびプリディレイは以下の表のようになります。

直接音 初期反射音 プリディレイ
Close 11.76ms 26.99ms 15.22ms
Far 29.41ms 36.76ms 7.35ms

ちなみに、このホールが縦横それぞれ2倍の大きさになったらどうなるでしょう? 同じように計算してみましょう。

直接音 初期反射音 プリディレイ
Close 23.53ms 53.97ms 30.44ms
Far 58.82ms 73.53ms 14.71ms

表から分かる通り、音源が離れるほどプリディレイが速くなります。音が鳴り始めてから15~50msの範囲は早期反射音といって人間が同一の音として認識する範囲らしいのですが、プリディレイが速いとこもった感じやぼやけた感じに聴こえ、この変化で音の奥行きを認識するそうです。

余談になりますが、音の輪郭を形作るものとしてトランジェントという要素があり、これはエンベロープカーブ内のアタック部分に存在しています。プリディレイが速くなるとこのトランジェントもぼかされ、これも人間が音の距離感を認識する要因となります。よって、より距離感の表現を強調するためにトランジェント系のエフェクトを併用することも効果的です。

直接音と初期反射音の音量差

冒頭で距離減衰について書きましたが、距離減衰は初期反射音も同様に言えます。まっすぐ飛んでくる直接音とは距離の差がありますので両者は減衰量が異なります。どれくらい違うのか、さきほどの図で算出してみましょう。

  • Closeの直接音と初期反射音の差 = 20log10(9.175m / 4m) = 約7.21dB
  • Farの直接音と初期反射音の差 = 20log10(12.5m / 10m) = 約1.94dB

というわけで、遠くになるほど直接音と初期反射音の差が小さくなります。実際は壁や天井に吸音率というものがありますので、初期反射音の減衰量はもっと大きくなります。

まとめ

これまでの内容をまとめます。

Wetの
絶対量
Dry/Wet比 プリディレイ DryとERの
音量差
Close 変わらない Dry > Wet
Far 変わらない Dry < Wet

こんな感じですね。高域減衰と低域拡散についてはリバーブのセッティングの範疇かと思いますので、次回にしたいと思います。

ではでは。