酒見賢一の『後宮小説』を十数年ぶりに読み返した。今読んでもこの絶妙な距離感はいいなぁと思いつつ頁をめくる。実は当時は知らなかったが、第1回日本ファンタジーノベル大賞受賞作だったとのこと。実際に存在したとされるある女性と、その国に関する文献を元に著者が解説を交えながら筆を進めていくという体裁が面白い。指輪物語などのように徹底的なリアリズムをもって世界を作り上げていくファンタジーとはまた少し異なり、架空のものをさも「昔々こんな事があったんだよ」と、「文献や取材による調査と筆者の想像力」という行為でもってひとつの世界や歴史を作り上げているこの作品もまたファンタジーなんだよなと思う。
今回、読後なんだか風とも空気ともつかないものが手からするりと通り過ぎていった感覚、どことなく肌寒い(それは悪寒という意味ではない)感覚はなんだろうと思っていたところ、高橋源一郎が評している「淡い哀しみをおびた「軽さ」である」の文を読み、ああなるほどと思ってしまった。それは冒頭で書いた「距離感」からくるものか、それとも特に最終章の部分でそう感じたのかは分からないが、とにかくそう感じた。