4. 悪魔のオークション~うまい話には裏がある

今回は昔々のお話

今回は中世のとある町でのお話です。

この町にマイク,ブレット,ローラ,クレア,リック,ステファン,アンドレの7人の若者が住んでいました。いつの時代にも不良はいるもので、彼らもそうした若者たちでした。彼らは魔法使いのおばあさんから、悪魔を呼び出すことが出来るという魔方陣を盗みだし、真夜中、町外れの森で悪魔召還の儀式を行いました。

4-1 悪魔の申し出

不思議な煙とともに悪魔が現れました。とはいっても、なんだか思ってたのとは少し違う、大したことの無さそうな悪魔です。悪魔は呼び出してくれたお礼にと、あることを言いました。

(悪魔)
「お前たちにこの宝石をやろう。残念ながらタダとは言わんが。
この宝石は金貨100枚分の値打ちがある。
そうだな、お前たちの中でこの宝石に最も高い値を付けた者に、
この宝石を売ることにしよう。
ただし、2番目に高い値を付けた者は、
私にその金額を支払わなければならない。
どうだ? 悪い話ではないだろう?」

宝石を安く売ってやるなんて、なんだか商売人みたいな悪魔です。でもたしかに、金貨100枚分の価値がある宝石を安く買って、後でその宝石を売り飛ばしたら、差額分が儲かったことになります。実は良い?悪魔なのかもしれません。

4-2 オークションスタート

宝石に目の無いローラが早速、「金貨1枚!」と値を付けました。このまま誰も値を付けなければ、ローラが金貨1枚で宝石を競り落とし、差額の99枚分儲かったことになります。すかさずクレアが「じゃあ私は2枚!」と言いました。このまま終わると、クレアが金貨2枚で宝石を手に入れ、ローラは悪魔に金貨1枚を支払わなければなりません。こうしてみんなが次々に「3枚」「4枚」「7枚」などと値を付け、少しずつ値は上がっていきました。

しばらく続いて、ステファンが「20枚!」、アンドレが「25枚!」と値を一気に吊り上げてきました。もともと特に欲深い2人です。どうしても儲かりたいのでしょう。このまま終わると、アンドレが25枚で宝石を手に入れ、またステファンも20枚支払わなければなりません。

だんだんアツくなってきました。ステファンが「35枚!」、アンドレが「40枚!」と、とどまることを知りません。2人の競り合いはまだまだ続きます。

やがて早々に傍観者となったリックが「?」と、おかしなことに気付きました。

(ステファン)
「122枚!」
(アンドレ)
「123枚!」

ちょっと待ってください。宝石は金貨100枚分の価値のはずです。

4-3 悪魔の罠

さて、宝石の実際の価値以上の値が付いてしまっているこの状況、なぜこんなことになってしまったのでしょう?

実は2人とも引くに引けない状況に陥っていました。ここでのポイントは、2番手の値を付けた人の苦しい状況です。

ステファンとアンドレも競り値が50枚を越えたあたりから、何かおかしいと感じてました。そして、ステファンの「55枚」に対し、アンドレが「60枚」を付けた時、ステファンははっきりと異変に気付きました。(ちょっと待てよ。ここで終わったら、アンドレが60枚で宝石を買って、俺も55枚払う。悪魔は金貨115枚を手にするじゃないか。宝石は金貨100枚の価値なんだろ、おかしいじゃないか…)

ステファンはためらいましたが、(でも、ここでやめると俺は55枚の損だ。しょうがない、まだ65枚で買っても35枚得する。辛抱だな)と考え、「65枚」と値付け。

アンドレが99枚を値付けし、そしてステファンがついに100枚を値付けした時、アンドレはどう考えたのでしょう?(ここでやめると99枚の損だ。でも101枚を付けて勝てば、1枚の損ですむ…) たしかにそうなんですが、ここで越えてはならない一線を越えてしまいました。

同じような状況が続きます。今やめると大損だ。でも勝ったら少しの損ですむ。しかしこのまま続くと…もう泥沼状態です。

「132枚」「133枚」…「186枚」「187枚」… 競り値が200枚を超えたところで、ステファンはあきらめました。結局、ステファンは200枚の損、201枚の値を付けたアンドレは201-100=101で101枚の損。金貨100枚分の宝石を計401枚で売った悪魔は301枚を儲けました。

「買ってくれてありがとう。お代はお前たちの家からもらっていくことにしよう」 悪魔はそう言うと、また不思議な煙とともに姿を消しました。後に残ったのは宝石だけです。

東の空が白み始めたころ、彼らが各々の家に戻ると、ステファンとアンドレの家にある壺からは先ほどの競り値分の金貨がしっかりと無くなってました。悪魔は最初から彼らをダマすつもりだったのです。彼らは悪魔の罠にまんまとはまってしまいました。

4-4 なぜこんなことに…

目の前にある利益を追うために入り込んでしまい、最後には損を抑えるために抜け出せなくなる。でもだんだん損が膨らんでいく。まさにアリ地獄のようなこのゲーム。これは、マーティン・シュービックが考案したドルオークションと呼ばれるモデルです。

さて、彼らはどうすべきだったのでしょう? いくつかの方法が考えられます。

まず、最も良い方法は、ローラが金貨1枚と値付けした時点で終了し、99枚分儲けることです。これを7人で山分けしても良いでしょう。なにしろ、落札した人の価格と2番目の人の価格の合計が100枚以下である限り、全体としては損はしません。逆に言うと、値が吊り上がるに従って彼ら全体としての利益は下がっていきます。つまり、彼らが各々自分だけの利益を考えて値を上げていく行為は、全体として受け取ることの出来る利益を下げていく行為でもあるという、第2章で述べた「囚人のジレンマ」の状態なのです。よって、彼らは事前に示し合わせて最悪でも落札者と2番手の提示額の合計を100枚に抑えるような行動をとるべきだったのです。しかし、彼らはそれを行わず、自分の儲けだけを考えてオークションに参加し、そして後には引けない状態に陥ってしまい、結局大損する羽目になってしまいました。

しかしながら、たとえ示し合わせていても、誰かが裏切るかもしれません(自分が丸儲けしたいから)。すると結局値を上げていくほかありません。これがこのゲームの厄介なところです。

4-5 よくある話?

さて、実際に起こりうる話に置き換えてみましょう。実際には先ほどの例のように示し合わせることができる機会はそうそうありません。

あなたは超人気のラーメン屋にやってきました。やはり長蛇の列です。あなたはここに来てどうしようかと迷っている間にも、次々と人が並んでいきます。

つまり、あなたがラーメンを食べて、待った甲斐があったという状態になるには、「ラーメンを食べた満足度」>「行列を長いこと待つ苦痛度」とならなければいけませんが、その苦痛度が今どんどん上がっている(行列が長くなっている=待つ時間が長くなる)状態です。あなたはあわてて列に並びます。

さあ、並びました。そして結構な時間が経ちます。しばらくしてやっと自分の前にあと数人という状態になりました。ところがここからなかなか前に進みません。入り口にいる店員に後どのくらいかを聞いても、はっきりとした返事は返ってきません。ここに来るまでに、かなりの時間が経っています。もうあなたは我慢の限界です。でもここで帰ってしまうと、列を待った苦痛が相当なところまで来ているので、あなたは時間を大損したと思うでしょう(つまり苦痛度大)。しかし、あとどれくらい待つのかはさっぱり分かりません。でもラーメンはかなりおいしいと評判です。食べたらきっと満足するでしょう(満足度>苦痛度)。いやいや、しょせんうわさ、意外に大した事ないかも知れません(満足度<苦痛度)。さて、あなたはどうした方がいいのでしょう?

この例では、先ほどの宝石と違い、ラーメンのはっきりした価値(満足度)が分かりません。でも、もう後には引き返せない所まで来てしまいました。こんなことになるんだったら、並ばない方が良かったと思うかもしれません。まあ、もし並ばなければ、おいしいラーメンを食べる満足度を手に入れられないかわりに、長い間待つという苦痛も感じずに済んだはずですもんね。でもやっぱり、おいしいと評判のラーメンは一度味わってみたいものです。

このように、「目の前に転がる利益を求めて、今度は損を抑えるために抜け出せなくなる、でも損は膨らむ…」という状況は普段の生活の中にさえ潜んでいます。しかし、何もしなければ利益も得られません。このあたりの見極めが大事だということでしょうね。

今回の内容、いかがだったでしょうか? 次回は「パイ分けゲーム」の予定です。では~