3. 賢い豚さん~2頭の豚さんの仁義なき戦い

今回も同じようなお話

前回は泥棒2人組の話でしたが、今回は2頭の豚さんの話をしましょう。今回登場してもらう豚さんたちは、かなり頭が良いです(笑

3-1 押すべきか、押さざるべきか

クリフおじさんの家では豚さんが2頭飼われてまして、大きい方はトミー、小さい方はジェラルドと名付けられていました。さて、彼らは同じ小屋の中で飼われているんですが、最近の自動化の流れで、この小屋にも餌を自動的に与えることのできるレバーが取り付けられました。豚さんたちがこのレバーを押すと、餌が自動的に出てくる仕組みになっています。ところが設置業者のミスで、小屋の片隅にあるレバーとは反対側の隅に餌が出てくるようになってしまいました。

う~ん、どう考えても良くない設計ですね(笑 とにかく、レバーを押した豚さんは餌を食べに反対側まで行かなければいけないのです。でもやっとたどり着いたときには、もう1頭の豚さんが出てきた餌のほとんどをちゃっかり食べてしまっていて、もうわずかしか残っていません。ただし、2頭の豚さんが同時に餌にたどり着いた場合は、トミーがさすが体が大きいだけあってジェラルドを追い払ってしまい、トミーは独り占めすることができます。

小屋は2頭で暮らすには結構広く、端から端まで走るとなるとわずかではありますがお腹が空きます。この場合、豚さんたちはレバーを押した方がいいのでしょうか、それとも横取り狙いをした方がいいのでしょうか?

3-2 悩める豚さん

さて、豚さんたちは考えます。なにしろ餌が懸かってますから(笑 ここで状況をもう少し詳しく見ていくことにしましょう。

レバーを押した際に出てくる餌の量はカップ6杯分です。ジェラルドがレバーを押した場合、ジェラルドが餌にたどり着く前に体の大きなトミーが全部食べてしまいます。逆にトミーがレバーを押した場合、トミーが餌にたどり着く前にジェラルドがカップ6杯分のうち、5杯分を食べてしまいます。また、偶然?2頭が同時にレバーを押した場合、すばしっこいジェラルドはトミーよりも先に餌にたどり着くことができ、トミーが来るまでに2杯分の餌を食べることができます。また、レバーの所から餌まで走っていくと、餌0.5杯分お腹が空いてしまいます。つまり、6杯分全部食べたとしても、5.5杯分食べたことにしかなりません。しかし横取りするとなると、餌はすぐ近くですから腹も減りません。

以上の内容を、前章でも使った利得表にまとめてみます。

  トミー
押す 押さない
ジェラルド 押す (1.5,3.5) (-0.5,6)
押さない (5,0.5) (0,0)

前章と同様、カッコ内の左側の数値はジェラルドのもの、右側の数値はトミーのものです。

3-3 考える豚さん

さて、ジェラルドは考えます。「トミーがレバーを押しに行くとするだろ。そうすると僕は、押しに行ったら1.5杯分腹が膨らんで、押しに行かなかったら5杯分腹が膨らむわけだ。逆にトミーがレバーを押しに行かないとするだろ、そうすると僕は、押しに行ったら0.5杯分腹が減るだけで食べられない。押しに行かなかったら、食べられないが腹も減らない。…こりゃ、押しに行かない方が得だな」

そうですね。ジェラルドにとっては、トミーが押すにせよ押さないにせよ、自分が押しに行かないほうが得なのです。自分が押しに行くと、行ったところで1.5杯分しか腹も膨らみませんし、下手すると0.5杯分腹が減っただけの徒労に終わる可能性もあります。押しに行かないとすると、5杯分腹が膨らむ可能性がありますし、最悪食べれなくとも腹も減りません。

一方、トミーも考えます。「ジェラルドがレバーを押しに行くとするだろ。俺も押しに行くと3.5杯分腹が膨らんで、押しに行かないと6杯分腹が膨らむ。逆にジェラルドがレバーを押しに行かないとするだろ。その時俺が押しに行くと、0.5杯分腹が膨らんで、押しに行かないと、腹も減らないが食べられない。…うーん、どっちが得なのかなぁ」

トミーはどうするか決めかねてますね。だって、トミーがどうした方が良いのかはジェラルド次第ですもんね。もしジェラルドがレバーを押しに行くのであれば、トミーは押しに行くべきではないし、ジェラルドがレバーを押しに行かないのであれば、トミーは押しに行った方が良いのですから。

トミーの採るべき行動は相手次第、なんだか、前章のビル君とジム君の状況みたいですね。じゃあ、トミーはどうしたら自分にとって最善の行動を決めることができるのでしょうか?

そこで、トミーはジェラルドの立場になって考える必要があります。すると、もうお分かりのように、ジェラルドは絶対押しに行かないことが分かります。とすると、その時のトミーの採るべき行動は、「押しに行く」です。

3-4 結果

2頭の考えに考えたあげくの結果はこうなりました。ジェラルドはレバーを絶対押しに行かない。だって徒労に終わるから。仕方が無いのでトミーがレバーを押しに行く。するとジェラルドがちゃっかりほとんど食べてしまい、トミーは少ししか食べられない。

しばらくして、クリフおじさんが小屋を見回りに来て、こうつぶやきました。「ジェラルドのやつ、ちゃっかりしてやがる」 また、トミーも少なからずこう思っていることでしょう。「くそぅ、わざわざ押しに行ってる俺が、少ししか食べられない」

たしかに、結果についての公平性について、クリフおじさんとトミーは多少なりとも疑問があるかもしれません。しかし、この状況ではトミーとジェラルド両方が選びうる最善の結果がこれ以外に無いので、仕方ありません。

当初は、沢山食べることができ、しかもジェラルドを追い払えるという強者の立場であるはずのトミーが一見有利なように見えましたが、実際には弱者の立場であるジェラルドの方が沢山の餌を食べることが出来ました。このように、状況によっては強者よりも弱者の方が有利になることもあるということが、この例から分かります。

3-5 戦いの終わり

後日、クリフおじさんが餌の出る場所をレバーのすぐ隣に移し変えました。これで2頭は、食べたい時に安心してレバーを押しに行くことになり、仁義なきも戦いもついに終焉を迎えたのでした。

以上、「賢い豚さん」いかがだったでしょうか? 前章とはまた少し異なる状況、結果に「へ~」と思われた方もいらっしゃると思います。次回は「悪魔のオークション」の話をしたいと思います。では~

参考文献

本章は、ジョン・マクミランが以下の書籍で紹介している「合理的な豚」というモデルです。

経営戦略のゲーム理論―交渉・契約・入札の戦略分析
ジョン・マクミラン 著
伊藤秀史・林田修 訳
有斐閣

この本はビジネススクールのテキストを元に出版されたものだそうで、ゲーム理論そのものよりも実務を意識した内容になっていて、非常にとっつきやすいです。そのため、ずいぶん昔に出版された本ではありますが、その分かりやすい内容から現在でも増刷を重ねられていて、初学者やビジネスマンへの入門書としておすすめの良書です。