4. 演奏人数と音量

はじめに

「1.ストリングスのコツ」でも少し出てきましたが、オケでは「ディヴィジ」という演奏上、作曲上の手法があります。これは弦パートで用いられるんですが、例えば、14人いる第1バイオリンのパートを7人と7人の2グループに分け、それぞれ別のフレーズを演奏するというものです。ストリングスのコツでも述べましたが、14人が一斉に弾くC3の音と、7人が弾くC3の音の聴覚上の音量は当然変わってくるはずです。ここではこの音量の変化を数学的に解析し、実際の打ち込みでどれくらいの数値に設定すれば良いかということを解説していきます。

4-1 音の単位、デシベル

音が鳴ると、ほんのわずかですが空気の圧力が変わります。この変化した分の圧力を音圧といいます。また、音の大きさを表すのに一般的に用いられる量を音圧レベルといい、単位はデシベル(dB)となります。音圧と音圧レベルの関係は以下のようになります。

SPL
:音圧レベル(dB)、Sound Pressure Levelの略
P
:その音の音圧(Pa(パスカル); N/m2
P*
:基準音圧(=2*10-5N/m2)…人間が聴くことの出来る最小音圧

上の式から解るように、ある音の音圧レベルというのは、「その音の音圧Pが基準音圧P*の何倍かという値の対数を取って、それを20倍した値」です。また、音のエネルギーは音圧の2乗に比例することから、

とも表せます。つまり、"その音のエネルギーが基準音圧のエネルギーの何倍かという値の対数を取って、それを10倍した値"とも言い換えることができるのです。さらに、これらの式より人が聴くことの出来る最小の音圧レベルは0dBだということが判ります。

ところで、なぜ対数を取るのでしょうか? それには理由が2つあります。

1つめの理由は、人間の耳に音として聴こえる音圧の範囲が広すぎるということです。音として聴こえる最小の音圧(つまり基準音圧)をPとすると、最大の音圧はなんと10000000Pにもなり、取り扱いが非常に面倒になってしまいます。しかし、これをdBで表すと0dBから140dBの範囲で済み、非常にコンパクトになるからです。

もう1つの理由は、dBは人間の感覚に合った単位だからです。人間は、音圧が1から10になった時と、10から100、そして100から1000になった時(いずれも音圧が10倍になった時)、同じくらい音量が大きくなったように感じます。"何倍になったか"ということは"何dB上昇したか"ということですんで、dBを使うと人間の音量の感じ方を物理的な量で表すことができるというわけです。

4-2 1人から2人

さて、音の大きさを表す方法は分りました。それでは次に、音源(MIDI音源のことではないですよ。音が鳴っている元のことです)の数が増減することによる、音圧レベルの変化について考えてみましょう。

まず、音源の数が1個から2個になった場合を考えてみましょう。各々の音源はまったく同じ音量を出しているとします。音源の数が2倍になると、その音のエネルギーも2倍になると考えて、4-1の式より、

となり、よって、同じ音量の音源数が2倍になると音圧レベルは約3dB増えるということになります。逆に、音源数が2分の1になると音圧レベルは3dB減少するということも併せて解ると思います。ここで注意して欲しいのは、音源数がいくつ増えた,減ったかではなく、音源数が何倍,何分の1になったかということで考えるということです。

また、音源数が10倍になった場合は、同様の計算を行うことにより10dB増えることが分かります。計算自体は関数電卓(Win標準搭載のものでOK)で簡単に出来ますんで、色々算出してみてください。解る方は別にいいですが、操作方法としては、1.音源の増減量(何倍か?、または何分の1か?)を入力。2.logボタンを押す。3.それをそのまま10倍、です。

4-3 GM規格におけるデシベル

GM規格では、絶対的、または相対的音量を表すものとして、ボリューム(CC#7)エクスプレッション(CC#11)が定められています。この2つのCCは、値が127の時にハードまたはマスターのボリュームを全く下げません。そして値が0の時にはハードやマスターのボリュームを無限に下げる(つまり0にする)というようになっています。ハードやマスターのボリュームをどのくらい下げるのかという値をGain、コントロールチェンジの値をCとすると、

という関係が成り立つように、と規格で定められています。前述の内容を式で確認してみると、C=127のときGainは0dB(つまり、まったく下げない)となり、そしてCの値が少なくなるにつれ、Gainはより小さい値(つまり、よりボリュームを下げる)になっていきます。当然、Gainは0以下の値です。なお、上の式より、値の変化に対する音量の変化カーブは、値の2乗が音量に比例することが判ります。

(注)ボリューム(CC#7)とエクスプレッション(CC#11)の関係は以下のようになっています。
Gain[dB]=(20log10(CC#72/1272))+(20log10(CC#112/1272))

4-4 ディヴィジ時の音量算出の公式

さて、いよいよ本題です。これまで出てきた式を用いて、ディヴィジ時の音量を計算してみましょう。それにはまずテュッティ時の音量を定義する必要があります。テュッティ時のエクスプレッション(CC#11)(またはボリューム(CC#7))の値をT、その時のGainをGaintとすると、

となります。次にディヴィジ時の音量を定義します。ディヴィジ時のエクスプレッション(CC#11)(またはボリューム(CC#7))の値をD、その時のGainをGaindとすると、

となります。最後に、テュッティ時とディヴィジ時の音源数の変化による音圧レベルの変化量を定義します。4-2で出てきた音源数の変化による音圧レベルの変化の式を用い、音源数(演奏人数)の変化量をR、音圧レベルの変化量をGainrとすると、

となります。なお、Rはテュッティ時の音源数に対するディヴィジ時の音源数の割合(つまり0<R<1)と、ディヴィジ時の音源数に対するテュッティ時の音源数の割合(つまり1<R)のどちらでもかまいません。

(例)第1バイオリンが14人、ディヴィジ時には7人と7人の2パートに分かれる場合、テュッティ時の音源数に対するディヴィジ時の音源数の割合は2分の1(=0.5)、ディヴィジ時の音源数に対するテュッティ時の音源数の割合は2となります。

定義より、D<T、Gaint<0、Gaind<0、よってGaind<Gaintとなることが判っていますから、GaintからGaindを引いた値がGainrの絶対値となり

という式が成り立ちます。そして各項を先ほど定義した式に置き換えると、

となります。さて、式を解いてみましょう。絶対値を含む式ですんで、場合分けします。

I. 0<R<1のとき

D,T,R>0より

II. 1<Rのとき

D,T,R>0より

これで算出のための式が出来ました。次に行うコントロールチェンジの算出の計算が楽なため、今後Iの式をを使用することにします。

4-5 実際の設定

設定とは言っても非常に簡単です。先ほどの式に各値を代入すれば良い訳ですから(^^ゞ Winの電卓を関数電卓モードにして計算してみてください。

ためしに、第1バイオリンパートで考えてみましょう。このパートのテュッティ時のエクスプレッションを127、ディヴィジ時は各パートをテュッティ時のちょうど半分の人数で演奏(つまりR=0.5)することとします。式に代入して解くと、D≒107となります。つまりディヴィジ時は、エクスプレッションを107にすれば理論的に最適な音量となるわけです。また、人によっては普段エクスプレッションを100にして打ち込んでいる方もいらっしゃると思います。同様に計算してみると、その場合のディヴィジ時のエクスプレッションは84に設定すると、最適な音量になることが判ります。

しかし、これだけではまだ良いシミュレートとは言えません。なぜならこの設定はあくまでも音量の面だけだからです。実際の音は、音量だけでなく演奏される人数が増えることによるピッチのずれや広がり感の変化が加わってきます。つまり、コーラスも併せて変化させることになります。これにより、その音の音量の変化と共にコーラスの量(コーラス音の音量)の変化も加わることになるので、結果、先ほど設定したエクスプレッションの値では、最終的な聴覚上の音量の変化が付きすぎてしまうことになります。つまり、ディヴィジ時になると不自然に小さく聴こえるということです(逆にテュッティ時になると不自然に大きく聴こえてしまう)。このことを加味し、ディヴィジ時のエクスプレッションの値は前述の例においては、107を110~11584を90前後にします。つまり、音量(CC#7やCC#11の値)の変化量をいくらか小さくしてやるのです。こうして最終的な聴覚上の音量が自然に変化します。もちろん音色そのものについても、コーラスの量を変化させているために広がり感やピッチのずれが変化するという、人数感の表現としてはより的確な表現となります。

まとめ

オケの曲では、ディヴィジは本当によく現れます。オケのよりリアルなシミュレートを目指すためにもこの手法は非常に有効ですが、オケものに限らず、打ち込みでは各パート間やパート内のバランスは非常に大事ですんで、本講座で出てきた細かい式や数字はともかく、感覚として、「同じ音の演奏人数が増えたらその音の音量は上がる、減ったら下がる」ということを掴んでおくことは、データのクオリティのアップにつながる重要な要素ではないかと思います。

なお、ここで論じた内容は、あくまで単一パートの演奏人数の変化が音量に及ぼす影響についてです。当然のことながら、他のパートとの音量バランスについては、また異なる視点から考える必要があります。

また、最近はDTM音源が活躍する機会も減り、QLSOやVSLなどのライブラリが活躍する時代となっています。しかしながら、例えばディヴィジ時の音色が無いライブラリを使用する場合、4-2の考え方を利用し、テュッティ時の音色のボリュームを3dB下げて鳴らし、ディヴィジの表現を行うなど、ここで論じた内容は現在の制作環境でも十分に通用する考え方ではないかと思います。

参考資料

  1. 日本ビクター株式会社 音響資料
  2. General MIDI Level 2 Recommended Practice (RP024)