2. ヴィブラート?
はじめに
88Proのフルート2、ヴィブラートが美しく、とっても色っぽい音色です。ああいうヴィブラートのある音でメロディを奏でると、グッと生っぽくなってきてとってもリアルですよね。今回は、生楽器のシミュレートを行う上で音に表情を付けるという重要な要素である、このヴィブラートを検討してみたいと思います。
2-1 発生原理
ヴィブラートの発生原理は楽器によって様々です。詳しく述べていくと、とても専門的になってしまい、それだけで一冊本が書けてしますので割愛しますが、大まかに弦楽器と管楽器で分類することができます。
まず、弦楽器では弦を押さえている指を揺らすことにより発生します。これにより、振動する弦の長さが周期的に長くなったり短くなったりし、また、弦の張力が変化することで、ピッチ、音量、音色の周期的変化が起きます。次に管楽器ですが、管楽器はアンブシュア(演奏する際の、唇やその周辺部の形)やブレスのコントロールによって発生します。これらのコントロールにより、ピッチ、音量、音色の周期的変化が起こるというわけです。
MIDIでは、ピッチの周期的変化をヴィブラート、そして音量の周期的変化をトレモロとし、また、ヴィブラートは通常CC1のモジュレーションでコントロールしているためか、ヴィブラート=モジュレーション=ピッチの周期的変化と捉えられています。しかし実際の演奏では、ヴィブラートとはピッチ、音量、音色の各要素の総合的な変化のことであり、楽器、また演奏するジャンルによってはピッチよりも音量や音色の変化の方が大きく聴こえる場合もあるのです。
2-2 設定方法
ヴィブラートの設定方法で簡単な方法は、Vibrato DepthやVibrato Rateの値を調整し、ヴィブラートをモジュレーションでコントロールする方法です。例えばVibrato Depthの値を0にすると、ヴィブラートとノンヴィブラートを織り交ぜることもできます。ただし、これだけではピッチのコントロールしか行えませんので、音量、音色の変化よりもピッチの変化が目立つ弦楽器はこの方法でも構いませんが、ピッチの変化よりも音量、音色の変化の方が目立つ管楽器はリアルに聴こえません。そこで、ピッチ、音量、音色の各要素をモジュレーションのみで総合的に変化させるために、エクスクルーシブデータを使用します。以下の表をご覧ください。
GS | XG | |
---|---|---|
ピッチの変化幅 |
|
|
音色の変化幅 |
|
|
音量の変化幅 |
|
|
Part | x | nn |
---|---|---|
1 | 1 | 00 |
2 | 2 | 01 |
3 | 3 | 02 |
: | : | : |
9 | 9 | 08 |
10 | 0 | 09 |
11 | A | 0A |
: | : | : |
16 | F | 0F |
xとnnはコントロールしたいパートによって値が変わります。補足を参照してください。そして**は、変化させたい幅の値を00からF7の間で入力します。またssはチェックサムです。チェックサムの詳細は各音源の説明書の巻末に記載されていますので、そちらをご覧下さい。また、僕はいつも、変化の周期の速度はVibrato Rateで調節することにしてます(だってめんどくさいんですもん(^^ゞ) ちなみにVibrato Rateで調節すると、曲中でヴィブラートの速度を変化させる時にもコントロールが楽になります。あと、モジュレーションの値が0の時はヴィブラートが一切かからないように、Vibrato Depthの値は0にしてください。
さて、これでモジュレーションの値を変えると、ピッチ、音量、音色の各要素が総合的に変化するようになりました。この時点での設定では下図のような周期変化になっています。

ところが、実際の演奏では下図のような周期変化であることが多く、このように演奏した方がきれいなヴィブラートになると述べてあるものもたまに見かけます。下図ではちょっとオーバーに表記してますが、実際は上下の変化の割合が6:4から7:3くらいがちょうどいいらしいです。

そこで、MOD TVF CUTOFF(XGではMW LPF)やMOD AMPLITUDE(XGではMW AMPLITUDE)を使用し、上方向に少し持ち上げてやります。ただし、これはあくまでも音量と音色の面だけであって、ピッチについてはこの作業を行いません(注)。また、この上方向へのシフトをあまりオーバーにやりすぎると、エクスプレッションで抑揚を付ける際に逆にジャマになってしまいますんで、ほどほどにしておかないといけません。
以上、設定の方法を述べましたが、コツとしては、"ヴィブラートが普通にかかっている状態の、モジュレーションの値"を決め(僕はいつも100にしています)、その値のモジュレーションをかけた音を聴きながら調整していくのが手っ取り早いです。
(注)ピッチの変化が主に上下のどちら向きに掛かるのか、これは奏者の間でもさまざまな議論がなされており、一概に言えません。
2-3 設定のポイント
2-2で設定方法を述べましたが、では実際にどれくらいの値にした方が良いのでしょうか? 前述のとおり、弦楽器はピッチの変化が大部分を占めますんで、音量、音色共にほとんどかけなくて結構です。音量や音色の変化を大きくしてしまうと、トレモロのように聴こえてしまい、逆にリアルさが損なわれてしまいます。
管楽器、特に木管楽器は弦楽器とは逆に音量と音色の変化が大部分を占めます。ピッチの変化は極力押さえますが、ピッチがまったく変化しないようにしてしまうと、やはりトレモロのように聴こえてしまいますんで、その注意が必要です。次に金管楽器は、曲のジャンルによって各要素の変化の割合が変わってきます。クラシックでは、音量と音色の変化がメイン、ポップスやジャズではピッチの変化がメインになります。このあたりは自分の耳で細かく確認していく必要があります。
まとめ
ヴィブラートは、エクスプレッションと共に音に表情を付ける重要な要素です。大規模な編成の時にはそこまで気を遣う必要も無いかもしれませんが、小規模な編成のときやソロ演奏のときなどの、各パートの表情付けが重要になってくる場合に絶大な効果を発揮します。よりこだわってみたい方は、どうぞお試しください。